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   『通路側のE席』 ⑥
  
   のぞみ117号は静岡県内の6つの駅を通過し、すでに愛知県に入っている。
 時計の針は11時に向かう。終点の新大阪駅到着までは、残すところ1時間と15分ほど。
 こうなれば、とことん隣の男と話してみよう。そう決めた私は、とりあえず子供のことから尋ね
 てみることにした。息子なのか?娘なのか?ネパールの人って、どんな名前だろう?
  やっぱり覚えるのが大変なくらい長い名前とかかな。そんな想像を膨らませる。

  「きょう会えるお子さんは、男の子?女の子?」こんな感じで声を掛けようとE席に目をやって
 みると、、、そこには気持ちよさそうに目を閉じてまどろむ彼の姿があった。ウイスキーと2杯の
 チューハイが廻ってきたのだろう。背もたれと窓に寄りかかって、もう2時間ぐらい寝入ってい
 るかのような表情をしている。「完全に彼のペースに飲まれてしまった。」
 確かにそう感じたが、悪い気は全くしなかった。

  数分後、携帯電話が胸のポケットでブルブルと振動した。通話ボタンを押しながら、足早に
 14号車との間のデッキに移動する。仕事先からの電話だ。途中何度か通話が途切れてしま
 ったこともあり、10分以上をデッキで過ごしただろうか。その間にワゴンサービスが私の脇を
 通って13号車に入っていった。E席の彼が必ず酒を買うからなのか、13号車にワゴンの来る
 回数が多い気がする。
  そういえば、彼に買ってもらったペットボトルのお茶はもう空っぽだった。彼が起きていれば
 だが、ワゴンが来たら、またお決まりの科白で「ナニ飲ム?」と聞いてくれるだろうから、2本目
 を買ってもらえたかもしれない。密かにそう考えていた。
  ちょっとばかし残念な気もしたが、まぁ、眠っているだろうから今回のワゴンには気が付かな
 いだろう。
 
  途切れた会話をつなぎ合せる様に電話が終わった。
 We will soon make a brief stop at Nagoya・・・ アナウンスの声が聞こえてくる。
 13号車に戻ると、10番E席の彼は上着を羽織り、立ち上がって通路に立っていた。
 「ワタシ降リルネ、トモダチに会ウネ。」

  てっきり新大阪まで行くものだと思っていたのだが、急遽予定が変わったらしい。彼は私の
 背中をポンっと軽く2度叩くと、バッグを持って列車を降りていった。
  ん?関西空港は行かなくていいのかな。時間に余裕があるのかな。すこし疑問も残ったが、
 ついに乗車券どおりの『13号車10番E席』が空いた。どことなく寂しい気持ちにもなったのだ
 が、新大阪までの53分間はD席とE席の両方を広々と使える。
  自宅から持ってきた朝刊を鞄から取り出して開く。不具合の出た製品の回収の話や、公費
 の無駄遣いをたたく記事が相変わらず多い。外を見れば、快晴の陽気。
  いつの間にか私は浅い眠りに入っていた。

  太陽に照らされた琵琶湖の水面がキラキラと車窓に映っている。眩しさにふと目が覚める。
 銀色と白色が交錯し、時折プリズムのようにも見える。 窓際に右腕を乗っけながら、しばらく 
 それを眺めていた。なんとなく、喉が渇いてきた。
 
  時計は11時40分を回ろうとしていた。そろそろ京都駅に着きそうだ。 
 大阪へ行くときは、京都が近づいてくると、ぼちぼち降りる準備を始めようかという気分になる。
 ワイシャツの裾を正し、緩めたネクタイを締めなおす。
  そして、ゴミをまとめようと思い、私が名古屋まで座っていたD席のシートポケットにあるお茶
 のペットボトルを取った。そこで私はハッと驚く。
  からっぽのはずのボトルが冷たいのだ。

  ペットボトルは500ミリリットル満杯だった。
 喉が渇いていた私は、E席に腰を掛け、遠慮なくお茶をいただくことにした。
  
  シートポケットには手帳の1ページをちぎったであろう紙切れが残っていた。
 そこには、死ぬほど下手な文字で 「どうぞ」 と書かれていた。

  
  <通路側のE席・おわり>
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by h_arima3 | 2007-02-16 22:25 | Football総合
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